先日の日本語のレッスンで、ある生徒さんから面白い話を聞きました。
彼はシンガポール人の男性で、私と同じくらいの年齢なのですが、彼がナショナルサービスに行っていたときの話です。
ナショナルサービスとは、シンガポールの兵役制度のことで、全てのシンガポール男性は18歳になった時に、2年間の軍事訓練を受ける義務があります。
彼も2年間、そのナショナルサービスについたのですが、そのとき彼の上司に、インド系の女性の軍曹がいました。彼女は宗教上の都合から完全なベジタリアンで、肉類は一切食べない人だったそうです。
彼女はいつも軍事訓練が行われるキャンプの食堂で、肉類以外の食べ物を選んで、食事をとっていました。食堂にはマレー系の給食のオジさんのような人がいて、彼にいつも肉が入っていないかを聞いていたそうです。
そして彼女の好物の一つに、べガディール(Begedil)という、マレー風のマッシュポテトのコロッケがあったそうです。ポテトだけのものもあれば、ひき肉が入ったものもあるそうですが、彼女はベジタリアンなので、食堂のオジさんに、ポテトだけのべガディールである事を確認して、それを毎日食べていたそうです。
そしてある日、その日はハリラヤ・プアサという、ほとんどのマレー系の人が信仰している、イスラム教の断食明けを祝う特別な日でした。
その日の午後に、その女性軍曹がブリッブリに怒っていたので、何があったのか聞いてみたそうです。
すると
その日もいつもどおり彼女が食堂で、お昼ご飯にコロッケを注文したらしいのですが、食堂のオジさんが、今日はコロッケは食べちゃいけないと言うのだそうです。
どうして今日はダメなの?と彼女が聞くと、オジさんはこう答えたそうです。
そのコロッケには実は肉が入っている。今日はハリラヤ・プアサだから嘘はつけない。だから食べるな。
オジさんはどうやら、今までずっと肉の入ったべガディールを、嘘をついて彼女に食べさせていたようです。きっとめんどくさいから、わかりはしないと思っていたんでしょう。
しかし、プアサの日以外は嘘をついてもいいんでしょうか。信心深いというか、バカ正直というか、とんでもないオジさんです。
オジさんがどんな顔をして言ったのか気になりますが、おそらく悪びれもせずという感じだったと予想します。
その後どうなったかはわかりませんが、マレー系にはこういうとぼけた人がけっこういるので、いちいち本気で怒っていてはキリがありません。
食べる物にこだわりがある人や、深刻なアレルギーを持った人などは、東南アジアではあまり人の言うことを鵜呑みにせず、慎重に慎重を重ね、自己責任で食べたいほうがいいかもしれません。気をつけましょう!