前編はコチラ
戻って来た青年の姿を見て私は驚愕しました。
さっきまで笑顔であっけらかんとしていた青年が、あるおじさんに肩を抱きかかえられ、フラッフラになりながら帰ってきたのです。
(こんな感じ ↓ )
そして、その後ろには怖そうなおじさん連中を4、5人引き連れています。
彼の表情はまるで、交通事故で自分以外の家族が全員死んでしまったかのような悲痛さを浮かべています。
私は最初何が起こったのかまっったくわかりませんでした。
なぜさっきまで元気だった彼がこんな姿に???
この俺を睨みつけているおじさん連中は???
そして青年の肩を抱きかかえていたおじさんが口を開きました。
( 以下の会話は全て、カタコトの英語で行われています。 )
これはとぉぉぉぉっても高いバイクなんだ
(実際には "This is veeeeryyyyyy expensive bike" と言いました)
その瞬間、私はようやく全てを理解しました。
そうか、茶番がスタートしたのかと。
私から金をふんだくる壮大な茶番がスタートしたのかと。
急に私の心臓が激しく鼓動し始めました。
青年はついにおじさん(以下オヤジ)からも離れ、地面にヘタリ込んでしまいました。素晴らしい演技です。
オヤジは、なんてかわいそうなんだとでも言いたげに青年を見て、それから私に修理屋へ行こうと言いました。
私には断る術はなく、私がオヤジのバイクの後ろにのり、青年は傷ついたスクーターを運転し、3人でバイクの修理屋へ行きました。
修理屋に着くや否や、オヤジはスタスタと修理屋の中に入って行き、中の方でこっちを見ながら作業員と何かを話しています。
そしてこちらへ戻ってきてこう言いました。
180 USドルだ
(1万8千円)
私は、思わず払ってしまいそうな絶妙な金額だなと思いました。
しかしおそらくベトナムで、あんな傷程度でそんなにかかるはずはありません。
私は心臓が飛び出しそうでしたが、どうすればこの場を切り抜けられるのか、必死で考えました。オヤジと青年は、私の方をジッと見ています。
そして私は、自分も茶番劇に参加することにしました。
まずはものすごぉぉぉく申し訳なさそうな顔をして、こう言いました。
今回は、ほんとぉぉぉにすみませんでした。
これは全部私が悪いのです。私が全部悪いのですから、私は180ドルを払います。私は本当に払いたいです。
でも、ごめんなさい。私はお金がないのです。
そういって自分の財布を開いて見せました。
そこには140,000ベトナムドン (670円くらい)しか入っていません。
オヤジは鼻で笑いました。
そして、こんなお金でどうやってこれから旅行を続けるんだ。嘘をつくなと言いました。
私はそこで少し神妙な顔をした後に、今度は財布の違うポケットを開いて、中国元258元 (3700円程度)を出しました。
これが私の作戦でした。
これがありったけの金だからこれで勘弁してくれと。
そして私は説明しました。
今晩これからハノイに電車で帰る予定で、電車のチケットはもう買ってある。ハノイに着いたら友達がいるので、彼が泊まっているホステルに泊めてもらい、次の日に飛行機で日本へ帰る。だからこの金でちょうどいいのだ、と。(全部ウソ)
オヤジは信じたか信じなかったかはわかりませんが、また180ドル払えと言いました。
そして私はまた申し訳ない顔で、払いたいのは山々ですが、本当にこれだけしかないんです、と言いました。
その攻防を何回か繰り返した後、私はこれでは埒が明かないと思い、警察に行ってはどうだろうと提案しました。
オヤジが警察には絶対行きたくないと確信していたからです。彼は非合法的に、出来るだけ多くふんだくりたいのです。
オヤジはすぐに警察は今日は休みだと言いました。
しかし警察が休みだなんて聞いたことがありません。そんなはずはないと言うと、じゃあ行って見てみるかというので、私たち3人はまたバイクで移動しました。
そして着いた先は、どう見ても警察署ではなく何かのお店のようですが、シャッターが閉まっています。
オヤジは、ここが警察署だと言い張りますが、シャッターの横の窓から中を覗くと、なにやら新聞のようなものが山積みになっています。
どう考えてもここは新聞屋だろうと言ったのですが、オヤジはここが警察で、警察は今日は休みなんだの一点張りです。
私はまた埒が明かないと思い困りましたが、また一つアイデアが浮かびました。
昨日泊まったホテルに行き、ホテルのオーナーに助けを求めようと思ったのです。
そして荷物も取りがてらに、3人でホテルに向かいました。
しかしホテルに着くや否や、またオヤジはスタスタと先にホテルの中に入っていき、オーナーとベトナム語で話し始めました。
するとオーナーの表情は突然暗くなり、私のところへ来て、残念だけど君は彼に全部お金を払わなきゃいけないよ・・・と言いました。
その瞬間に、私の中で何かがプツリと切れました。
ホテルのオーナーは、この町の中で唯一、味方になってくれる可能性のある人でした。その人が味方にはなってくれないと知った時、私はこの広大なベトナムで独りっきりで戦わなければいけないんだなと悟ったのです。
私は下手な小細工はもうやめようと思い、先ほどの修理屋へ戻ろうと言いました。
そしてホテルから荷物を持って、またバイクに乗りました。
修理屋でもまた 払え、金がない、払え、本当にないと、先ほどと同じような事が繰り返されましたが、実は電車の時間が刻一刻と迫っています。
ですが先に痺れを切らせたのはオヤジの方でした。
もういい加減うんざりだという顔になり、中国元だけ受け取って終わりにしようという気配が出てきました。
私はもう一息だと思い嬉しくなりましたが、その心を読まれないように神妙な面持ちを続けました。
そしてオヤジは、お前他に金目のものは持ってないのかと、突然私のカバンに手を入れ、中に入っていた私のデジカメを取り出しました。
そして オッ!良い物持ってるじゃねーかというまるで悪魔のような笑みを浮かべました。
私はその顔を見た瞬間、ついにブチ切れ、すぐにそのデジカメをオヤジの手から取りあえげこう叫びました。
これはお前にはやらん!!!
俺は今日ここにもう一泊して明日警察に行くーーーー!!!!
それを聞いたオヤジも逆上し、叫びました。
だめだーーーー!!!
お前は今日金を払うんだーーーー!!!!
私は今がチャンスだと我に返り、オヤジの前にありったけの中国元(3,700円)をつき出して、また叫びました。
じゃあ・・・これでいいだろーーーー!!!!
オヤジも一瞬間が空いてから
・・・わ、わかったーーーー!!!!
といいその中国元を掴みました。
こうしてようやく、私とオヤジの長い闘いが終わったのです。
終わってみると、オヤジも急に気のいいただのオッサンになり、じゃあこれから駅まで送ってやるよと言ってくれました。
そして青年の方ももうすっかり笑顔になっており、よかったね丸く収まって☆みたいな顔で私を見ています。
私はもう白い灰のように燃え尽きて、声もうまく出せなかったのですが、とりあえず青年と記念写真を撮っておきました。
そしてまたオヤジのバイクの後ろに乗り、駅まで送ってもらいました。
その途中に、オヤジが後ろの私にこう言いました。
今度ベトナムに来る時は、もう少したくさんお金を持ってこいよ、と。
私は苦笑するしかありませんでした。
そして私は無事に電車に間に合い、夜行列車に乗ってハノイへと帰ったのでした。
おしまい
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