あれは2011年の春、奥さんと二人でタイのバンコクに旅行に出かけたときの話です。
全部で4日間だけの旅行で、私たちは王宮や、アユタヤ遺跡、ウィークエンドマーケットなど、バンコクの主要観光地などを周りました。
そして3日目の午後、「次の日の便で私たちはシンガポールに帰るけど、他にやり残した事はないか、他に見たいものはないか」と奥さんに聞いたところ、奥さんは「それじゃあせっかくだからレディーボーイ(ニューハーフのこと)ショーを見に行ってみたい」と言いました。
たしかにレディーボーイショーはバンコクでも人気のアトラクションです。
それじゃあ有名な所に行ってみようと、インターネットで調べたんですが、3000円以上するのです。もう少し安い料金を想像していた私たちは、ちょっと考えてしまいました。
奥さんは、「まぁそんなに見たいわけじゃないから、今回は見なくてもいい」と言うのですが、私はしばらく考えて一つ妙案が浮かびました。
そういえば前に一人でバンコクに来たときに、パッポン通りという繁華街の、レディーボーイのお店に行ってみたことがあるが、あそこはなかなか美人が揃っていて、奥さんも満足できるかもしれない。
しかもビールを一本頼むだけで、しばらくいる事もできるので、だいぶ安上がりだ。
そう思い、そっちを二人で見に行くことにしました。
わたしたちはその日、もう他に見るものがなかったので、晩ご飯の前にその店に行き、30分くらい雰囲気を楽しんだあとで、晩ご飯を食べに行こうと考え、夕方6時半くらいに、パッポン通りに着きました。
パッポン通りとは、バンコクの中でも屈指の繁華街で、夜になると道の真中に露天が立ち並び、その脇には数々のGO GO BAR (水着を着たセクシーな女性がステージなどの上で踊っているバー) がひしめいている、有名な通りです。
わたしは、女の人が入店しても大丈夫なのかな、などと考えながら、すぐにそのレディーボーイ専門の店に着いたのですが、なんとまだお店は開店前です。お店の前には一人の青年がおり、ここは夜7時からオープンだと言われました。
私たちは二人で顔を見合わせ、今回はしょうがないね、縁がなかったという事であきらめよう、と言って帰ろうと思ったそのとき、一人のタイ人のオバさんが話しかけてきました。
オバさんが言うには、ここのGO GO BARはどこも夜7時に開店だけど、うちの店は6時から開いているということです。
少し怪しいなと思ったので断りかけたのですが、そのレディーボーイのお店の青年も、ここが開くまであと30分あるから、そっちのお店で時間を潰してくればいいじゃないかとすすめました。
しかしまだ私は渋っていました。
そして奥さんに意見を聞いてみると、ぜひそのおばさんのお店も見てみたいと言ったので、仕方なくその店に行ってみることにしました。
2分くらい歩いて着いたそのお店は、2階にあるみたいで、階段を登ってお店に入りました。
そしてドアを開けると、そこには信じられない光景が広がっていました・・・。
非常に薄暗い店内で、左側にはカウンターがあり、右側にはお客さんが座る席があり、そこには唯一のお客さんである、アジア系の巨漢のオジさんが座っていました。
そしてその真中にステージがあるんですが、そこには完全に真っ裸のおばさんが2人(推定40代半ば)、そしてよく肥えた女性(推定70kg)と、愛想がまったくないふてくされた顔の女性が水着を着て、踊りとは言い難い奇妙な反復動作を繰り返していました。
私は一瞬なにが起こったのかわかりませんでしたが、すぐに我に返り、表情がかたまったまま、とりあえず席の方へ移動しました。奥さんもだいぶ緊張した様子でした。
するとさきほどのオバさんが飲み物はなんにする聞いてきたので、とりあえずビールを2本頼みました。
そして改めてステージを見てみたのですが、この世の物とは言い難い、空間のねじれにできた小さな踊り場のようで、デヴィッド・リンチ監督の映画のような、奇妙な雰囲気が漂っています。
我々のビールが来ると、ステージから数人の女性が駆け寄ってきて、乾杯をしようとしますが、わたしは「奢らないよ!」とキッパリ言って、彼女らを追い返しました。
女性たちは舌打ちをして、私にガンを飛ばしながらステージに戻って行きました。
私が動揺すると、奥さんを不安にさせるので、私は平静を装っていましたが、すでに不安で吐きそうでした。
そしてここからあのおぞましいショーが始まったのです。
後半へつづく
もし記事が面白かったら、下のバナーをクリックお願いします~